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蔚山(うるさん)城の戦い 紙一重の勝利

 韓国慶尚南道、日本海に面した人口116万の港湾都市蔚山(うるさん)。ここはかつて朝鮮の役の時加藤清正を大将とする日本軍が明将楊鎬率いる明・朝鮮連合軍5万余を迎え撃ちぎりぎりのところで勝利した蔚山城の戦いがあった場所です。

 蔚山城は、日本軍が朝鮮出兵時に築いた日本式城郭、所謂倭城の一つで、東側の最前線に位置した城でした。倭城は通常日本からの補給に都合が良い港湾都市や海側に近い小高い丘の上に築かれ、総構えで港湾も組み込みます。蔚山城も例外ではなく、海からほど近い太和江に面した標高50mの独立丘陵を主郭部とし周囲に郭を配し、太和江の支流で城の東側を流れる東川に面した小丘陵も取り込んだ城でした。記録では主要部を石垣で囲み、火縄銃の銃撃に都合が良い多門櫓を設けた堅固な城だったそうです。

 ただ築城を始めたのが1597年と遅く、同年12月には早くも敵の攻撃を受けたため未完成のまま戦ったと言われます。この城を担当する加藤清正は、ここから南15㎞にある西生浦倭城を拠点としており、毛利秀元、浅野幸長らの軍勢と共に急ピッチで築城を進めますが、明軍の襲来の方が早く来てしまいました。明軍の将楊鎬は、加藤清正を日本軍一の勇将ととらえており、清正を殺すか捕らえれば日本軍全体の士気をくじくと考えここに5万以上の大軍を集めます。

 当時蔚山城は籠城の準備もろくにできておらず兵糧も10日分しかありませんでした。城兵はわずか2千。通常なら数日で落ちる状態です。西生浦城で急報を受けた清正は、部隊の集結を待っていては間に合わなくなると思い、わずかの手勢を引き連れ太和江から船で急行します。同じく浅野幸長、太田一吉も加わりましたが、浅野幸長、毛利秀元らは築城のため場外で仮営していたところを明軍の先鋒である騎兵1千に急襲されたため大混乱に陥りました。緒戦の戦いで毛利家家臣冷泉元満、阿曾沼元秀、都野家頼らが打ち取られ460名もの死者を出します。

 城外の日本勢は慌てて蔚山城に駆け込みました。タイミングの悪いことに毛利秀元は物資を釜山に運び帰国の準備をしていて不在だったので、城には加藤清正、浅野行長、太田一吉と毛利家の留守部隊のみが籠城します。嵩にかかった明軍は12月23日三方から総攻撃を加えました。日本軍は主郭で加藤清正が総指揮をし、東側の郭を浅野勢が、西側を太田勢が、北側は毛利の留守部隊と加藤勢が守ります。浅野幸長が守る東側の出丸は本丸から離れて孤立しているため、清正は使者を送り郭を放棄して主郭に移るよう命じました。幸長も総構えが崩れそうになったのでこれに同意し部隊を移動させます。この日の明軍の攻撃は激しく総構えは簡単に突破され本丸、二の丸、三の丸の真下まで敵が迫る危機的状況に陥りました。

 加藤清正が自ら鉄砲で撃ちまくるほどの激戦です。後がない日本軍は必死に戦いようやく明軍を撃退しました。この日のために清正は鉄砲隊3百をあらかじめ蔚山城に送り込んでいたことで九死に一生を得たともいえます。その後も明軍は執拗に攻撃を繰り返しますが、戦国時代鉄砲戦術に長けた日本軍は、火縄銃を有効に使用する籠城術を身に着けその都度撃退します。

 戦いは持久戦になりました。するとわずか10日分の兵糧、飲み水も少なかったため日本軍に飢餓が訪れました。日本軍の援軍がいつ来るかに勝負の帰趨がかかっていたのです。籠城開始から10日後の翌1598年1月3日、毛利秀元、黒田長政率いる援軍1万2千が蔚山城南方の高地に到着、長宗我部元親率いる水軍も太和江を遡って着陣したため、明軍は早急に蔚山城を落城させなければ挟み撃ちにされる危険性がありました。

 楊鎬は消極策を述べる幕僚を斬って自ら督戦し最後の総攻撃を加えます。一方蔚山城では援軍の到来に士気が上がりありったけの鉄砲を撃ちまくってこれを撃退しました。明軍は膨大な死傷者を出し、もともと厭戦気分が蔓延していたことから士気が崩壊、総崩れになります。ここを城から打って出た加藤・浅野・太田勢と援軍の毛利・黒田勢で追撃し明軍の遺棄死体1万ともいわれる大勝利をあげました。明軍は多くの部隊長クラスを討たれ、楊鎬は漢城まで逃亡したそうです。

 ただ、この戦いは日本軍にとっても苦い勝利でした。援軍があと数日遅かったら蔚山城は陥落していたでしょう。兵糧はともかく、水不足は致命的でした。後年加藤清正は蔚山城の戦いを反省し、熊本城を築くとき城内に120か所の井戸を掘り、銀杏など食料になり得る木をたくさん植えます。城内の壁や畳にも芋がらなど緊急時の食糧になるものを塗りこんだそうですからよほど蔚山での籠城戦が懲りたのでしょう。

 熊本城は、加藤清正の厳しい経験がもとになって築城されたかと思うと感慨深いものがありますね。
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